シトロエン C5X 試乗記

  先にシトロエンC6のレビューをしたのは、このシトロエンの新型車C5Xのインプレッションを書くためでもあった。もし読まれていない方は先に読んでくださると良いことがあります。具体的には、私が喜びます。


 C5Xは全長4805×全幅1865×全高1485mmのDセグメントワゴンだ。SUV風に仕立てるため、地上高を多めにとってあり、その分キャビンの天地が薄くなっている。試乗した仕様では、1.6リッターの180馬力ターボエンジンとアイシンAW製の8速トルコンATが組み合わされていた。

 内装に関しては普通の欧州乗用車並だ。可もなく不可もなく、ただし500万円級の自動車にしてはテレスコピックが手動である。確かに電動の必要性はあまりないが……。

 視界に関しては前方は良好である。車幅とフロントオーバーハングが把握しやすい。一方で後方視界は絶望的だ。キャビンの天地方向が非常に薄い上に、後ろ上がりのデザインになっているためリアガラスの上下幅が非常に小さく、煽られているかどうかの判断程度にしか使えない。もし購入するとすれば、ドラレコを兼ねた電子ミラーを導入して解決するべきだろう。

 エンジンに関しては流石に現代エンジンで、スロットルレスポンスは良く、そう簡単にはターボラグを感じさせない。トランスミッションとの協調制御も綺麗になされている。ATの制御は、ややキックダウンを嫌う傾向にあるが、エンジンは低回転からちゃんとトルクを出す。むやみに変速したいときはパドルシフトで対応するので、こういった制御の方向性は好むところである。

 ドライビングポジションは出せる。流石に大きな車なので右ハンドルでもペダルオフセット等は許容範囲だ。一方で、流麗なスタイリングを優先した結果、後部座席はDセグメントにしてはややCセグメント寄りで、お尻が落ち込んだ乗車姿勢を取ることになる。荷室は非常に大きく、4人分の海外旅行用荷物も乗せられるだろう。走行時にトノカバーが少々共振するのが気になるが、トノカバーは日本では必要ないと思われる。

 車内の会話は明瞭に聞こえ、タイヤノイズ等は消しにいく一方で、ある程度の駆動系のサウンドは聞こえる。"音を消しすぎない快適さもある"ということを教えてくれる。

 さて、肝心の乗り心地だが、Dセグメントで1500kgという車重に反して、ボディ剛性は必要十分である。おそらく、車重はパワートレインや装備類が少ない分軽いということなのだろう。低速域の尖った小さな入力には、ハイドロニューマチック時代のシトロエンに比べて揺さぶられるものの、現代車としては頑張ってはいる。おそらくタイヤをもっと乗り心地の良いものに交換することで改善されるとは思う。そして、大きなうねりのある路面に入ると、驚きがあった。フロントは固めで一発で収めるような動きをするが、リア側が長周期でだらりと止めに行く、C6のあの感じがあったのだ。そして、時速90km/hあたりを超えると、前後のサスペンションがシンクロしているかのように動き、フラットに車体が走り続ける。ロールスロイスが買い付けに来たという逸話がある、往年のシトロエンの素晴らしい乗り心地が復活している。


 これには種も仕掛けもある。ダンパーが特殊なのだ。

https://www.stellantis.jp/news/20201020_citroen_phc より
 ダンパーは、基本的にピストンスピードに相関して(線形ではない)、運動エネルギーを(オイルを細い流路に通して)熱エネルギーに変換することで減衰力を発生する。そして、サスペンションの底付きを抑えるため、通常のダンパーではバンプラバーを設置する。

 ところが、この特殊ダンパーでは、バンプラバーは必要最小限で、その代わりにダンパーの端側に位置と速度に依存して減衰力を立ち上げるいわば"追加的ダンパー"が搭載されている。その結果、セッティングの幅が広がり、サスペンションストロークはたっぷりと使え、静止時の車高付近のところの減衰力を落として乗り心地を良くする事もできる。元々は、ラリーカーのための技術で、1994年のCitroën ZX Rally Raidから採用され、現代ではシトロエン以外のラリーカーにも同じ構造が採用されている。ラリーカーが大ジャンプをした後、ピタリと猫のように着地するのはこのダンパーあってのものだ。




 C5Xでは、フロントは縮みと伸びの両方にこの追加ダンパーが、リアは縮のみにこの追加的ダンパーが使われている。この結果、昔のシトロエンのようなフィーリングを生み出すというのだ。

 実際に、あのC6にあったフィーリングが、この車にはある。高速巡航時に車体がフラットに走り続けて非常に快適となるのだ。そして、車体の大きさ、パワートレーンの出力、乗り心地、現在のシトロエンのフラッグシップとして、この車はまさしくC6の正当な後継車だ。全高が低いのは立体駐車場の選択肢が増えて有利だ。後方視界は電子ミラーで解決できる。アクセルペダルは非常にリニアリティがあり、ブレーキのフィーリングもシトロエンにしては悪くない。ステアリングフィールも現代車の中ではかなり良いほうだ。シトロエンのラリー技術を転用したというストーリーも魅力だ。何より、この車は私を惹き付ける。

 その時、警告音とともに最新の液晶メーター内に警告が光った。読むと、"アクティブ・クルーズ・コントロール故障"とある。そうだった。この車はシトロエンで、フランス製なのだ。最後になって、この車は私に"信頼性の低いフランス車への覚悟"を問うてきたのだった。



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