S660について、20221207修正 (オーナーは絶対に読まないでください)

「スポーツカーの意味を勘違いした人間によって作られた、それを理解した上でオモチャとして楽しめる大人が乗る車」

 まあここまでS660を擦ってきましたが、最後まで気に入りませんでしたね。

 そりゃツーリングも行きましたし、サーキットも行きましたし、友達とのドライブも行き、首都高も数え切れないほど走りました。実際に、そういった活動は非常に楽しかったですし、新しい繋がりもできました。その上で、"Not for me"という答えになります。

注意:この記事には過激な表現が含まれます。あくまで個人の感想ですので真に受けないでください。という注意書きがあるときは、要するに「今からボロクソにこき下ろすけど気にしないでねテヘペロ」ということです。


1.視界

 Aピラーが非常に遠く低いところにあり、また着座位置がこの手のミッドシップにしてはかなり高いところにあるため、前方、上方向の視界が非常に悪くなっています。信号待ちで、エビのように前かがみにならないと信号機を確認できません。ただでさえクソ狭い車内の上にです。

 それ以上に問題になるのは、左後方の視界の悪さです。車体外側からだとよくわかると思いますが、運転席のヘッドレストが完全に見えません。



 端的に言うと、ありえんでかい死角になっています。このデザインにGOを出した人は、S660が公道を走る車だということを忘れていたのでしょうか?そりゃカウンタックも後ろ見えませんが、あれは1970年代ですし、後ろが見えなくても迫力があるので譲ってもらえます。いざとなったら有り余るV型12気筒エンジンを使って前に出てねじ込むこともできるでしょう。ですがS660は軽自動車です。黄色ナンバーです。ただでさえ公道で肩身が狭いのに、高さも非常に低く、その小さいシルエットでは譲ってもらうことなど望めません。830kg/64PSでは前に出ることも不可能です。そもそも移動の手段として、危険と言ってもいいでしょう。そりゃ周りの車の台数も少ない地域ならマシかも知れませんが、関東平野で乗れたものではないです。


2.所謂"デザイン"

 テクスチャーデザインも非常にガキっぽいというか、分かってないなぁという印象を与えます。横から見て、Aピラーを倒して楔形風の一見すると直線基調っぽいデザインの割には、前も後ろも丸く下へ落ちていく形で、チグハグになっています。


 車体側面の曲面も、全体との一体感を欠きます。倒したAピラーに起因する楔形っぽいデザインの割に、ボディの下端が外側へ張り出しています。クラシックミッドシップカーによくあった、倒したAピラーを採用した自動車のデザインは基本的にくさび形で、ボディの下端は内側へ巻き込んで底面とスムーズに繋がるような形になります。車を一種の動物としてみたときに、タイヤ&ホイールは足に当たり、胴体その他の部分がボディに当たります。胴体が地面に向かって広がっているデザインは生理的にありえないのです。



          例えば、馬の胴体は下部が内側へ巻き込んでいますし
       ジアコーサ式流用MRの元祖であるところのX1/9だってそうです。


 このようにボディの下端が内側に巻き込むということは、"舟"に近いボディの側面になります。そもそもとして、MRというのは Mid-"ship" Rear-drive の略でしょう?


3.エンジンルームの冷却

  その他にも、この車は冷却が絶望的に足りていません。たったの64馬力なのにも関わらずです。それでも、20万円のオプション"アクティブスポイラー"をつけると、アクティブスポイラーが立ち上がったときにエンジンルームから風が抜けて多少マシになります。そもそも車体価格の1割にも及ぶオプションを組まなきゃマトモに冷えないようなものを売るなよと。

 一応、車体側面上部にインテークが備えられてはいます。これも、パワートレイン担当者はもっと大きなインテークにしたかったようですが、それを"インテークが薄いほうがカッコいいから"と言ってデザイン担当者が拒否したそうです。MRであるがために、ただでさえ厳しいエンジンの冷却を、理解した上でスポイルしているのです。そこまでして作ったスタイリングは、全然かっこよくないというところも致命的です。


4. 車体設計と剛性

 車体設計もどうして?となる部分がたくさんあります。せっかくAピラーを寝かせて、前バルクヘッドが前方にあるので、フロントサスペンショントップマウントをバルクヘッドに直接溶接すれば剛性が出しやすくなります。実際に、ビートはそういう設計になっています。が、S660はフロントにエンジンが無いのに、せっかくAピラーを寝かせたのに、わざわざトップマウントを離して、そのためにタワーバーが追加されています。設計下手なの?

          ↑ S660の場合

         ↑ ビートの場合

 側面視で二次元的に見ると、エンジンルームとキャビンの隔壁の間隔は詰められているように見えますが、これは錯覚です。このエンジンで、車体前方側に張り出しているのは排気タービンだけです。3次元的に考えれば、センタートンネル後端を高く持ってきて、センタートンネルの部分のバルクヘッドを凹ませることで十分レイアウトできるはずです。そうすれば、キャビンも広くなりますし、座席後方のスペースに多少の荷物も置けるようになり、拡大されたセンタートンネルによって剛性も向上するはずです。設計下手??


 リアのサスタワー周りの設計は致命的です。サスペンショントップマウント取付部が、非常に細い片持梁によってのみボディと接合しています。そして、せっかくのリアクォーターパネルがボルト2本ドメで、ただのカバーとなっていて、入力を受ける部材になっていません。リアクォーターパネルを人力でちょっと押しただけで大きく撓ります。ビートのリアクォーターパネルはちゃんと力を受けていたのに、どうしてS660はこうなったのでしょうね。端的に言って設計が下手。

 センタートンネルもそうですが、サイドシルも高さが全く足りていません。基本的に、オープンカーはセンタートンネルやサイドシルの断面を大きく取ってボディ剛性を確保するものです。サイドシルで稼いでいる典型はロータスエリーゼですね。センタートンネルで稼いでいる典型はポルシェボクスターです。S660は両方ともに高さが全然足りていないため、屋根を開けて走るとボディが軋みます。かといって、屋根を閉めると先に書いたように絶望的な閉塞感ある視界になります。

 広報資料いわく、"高いボディ剛性"とありますが、こんな設計で剛性が出るわけがありませんし、走らせてもそんな剛性感は欠片もありません。剛性を測定することすらマトモにできないのか、それとも堂々と嘘をついているのかどちらなのでしょうね。


5 アクセルペダルとエンジン

 この車は電子制御スロットルを採用しているのですが、まずアクセルペダル側のセンサーの分解能がクソみたいに低いです。そのため、親指の拇指球に力を入れるような微細なスロットル操作には一切反応しません。曲がりなりにもスポーツカーと名乗るなら、まずマトモなアクセルペダルセンサーを持ってきて下さい。

 電子制御スロットルの制御も非常に酷いものです。まず、自動車排出ガス規制のために、アクセルの踏む方向にはスロットルの若干の遅れ、戻す方向には大幅な遅れを持たせる制御が入っています。これに加え、ターボラグを抑えるために、スロットル早開け制御も入ります。バランサーなしの3気筒をほぼ背中の後ろに搭載しているために、振動を抑えるための制御も入っています。これら3種類の制御が入れ代わり立ち代わり現れ、スロットルのリニアリティやレスポンスなんてものは全くありません。そもそも軽自動車用の廉価なエンジンの流用というのもあるでしょうが、それにしても酷いものです。最後まで違和感たっぷりでした。


6 ステアリング周り

 ハンドルがDシェイプの専用小径ハンドルとなっており下側がカットされているため、下道でハンドルを持ち替えつつ回すにもストレスが溜まります。しかもステアリングラックの固定方法が悪いため、ステアリングのデッドゾーンが常に変化し続け、車線内を直進するにも気を使います。広報資料によれば、本車はブッシュ無しでステアリングラックを固定していることでダイレクト感があると主張するが、精度が悪くガタがあるため、ガタの分がすなわち遊びとなっています。ブッシュであれば、ゴムによって一定の位置に収まろうとする力が働くが、ブッシュが無いために常にステアリングラックが今どこの位置にズレているのかを探りながら行かなければなりません。勇気一発エイヤッというドヘタクソ運転ならば問題にならないかもしれませんが。

 さらに、ステアリングラックの固定方法にも問題があります。ステアリングラックからかなり離れた位置に2本のボルトで固定しているため、2本のボルトを結んだ仮想軸を中心に回転する方向の動きを拘束できず、ステアリングラックが暴れています。端的に言うと片持ち梁です。そのためステアリングを固定していても路面反力によってフロントタイヤの向きが常時ブレます。このように、ステアリング舵角とタイヤの向きが常時一致しないので、飛ばして攻めることで"固め"無い限り、常に原因不明の修正舵を求められ続けます。



 フィットから流用した、電動パワーステアリングの制御も粗雑です。コラムアシストで顕著な、"ウォームギアの静摩擦抵抗"のフィーリングがどこまでもついてまわります。舵角一定でなんとか旋回に入っても、あるところから突然センタロン制御が入り、ハンドルを中央に戻そうとする力が強まります。こんなパワーステアリングでは、フロントタイヤの状態を感じ取ることなど全くできません。


7. スポーツを勘違いしたタイヤ

 そりゃアスファルトとの摩擦力が大きいタイヤを履かせて、バネレートを上げれば、最大前後Gや最大旋回Gは高くなります。猿でもわかります。どんな世界観を演出するかがスポーツカーで、タイヤはあくまでそのための手段です。最大Gが高いのでスポーツカーです!なんてのは本末転倒です。


8. 積載量

 S660は全く荷物を積むことはできません。ただ、積むことができない事自体が問題ではないのです。実際に、例えばロータスエリーゼのトランクのサイズや温度を問題視する人はいません。先に書いたように、エンジンの前部分に非常に大きな隙間があります。また、マフラーの上部にも非常に大きな何もない空間があります。ぎっしりとパワートレインや配管や部材を詰め込んだので荷物が積めませんというなら良いのです。剛性もない、エンジンルームもスカスカ、「だけど荷物は積めません!なぜならスポーツカーだから!(by主査)」というのはただの設計の怠慢でしょう。


9. 乗降性

 端的に申し上げて最悪です。しかしながら、これもロータスエリーゼのように、軽量で高剛性バスタブのために乗降性が悪いと言うならば問題ないのです。この車は、座席の後方スライド量が非常に少ないことと、ドアからスピーカーの部分が大きく飛び出していて、それが乗降性を妨げているのが問題なのです。スピーカーなんて走りには全く関係ありませんし、ドアの乗降性に差し障る最下端前方に大きく張り出しておく必要などまったくないはずです。スポーツカーの"走り"と全く関係のない、設計の間違ったこだわりのために実用性が削がれているのです。開発陣の弁によれば、”運転しているときのタイトな包まれ感のため”ということらしいのですが、またもや目的と手段が逆転しています。性能のために居住空間を多少犠牲にするという話だと思うのですが。


10. リサーキュレーションバルブ

 S660は、N-BOXの死ぬほどやる気を削ぐエンジンサウンドが耳元で鳴り響きます。少しでもマシにしようと思ったのか、この車は、アクセルオフ時にブースト圧を逃がすためのリサーキュレーションバルブが動作するときに、""プシュン""という音がします。

 自動車のブースト圧を逃がす際に出る空気は、法律上エンジン外に排出することが禁止されているため、基本的に吸気系の途中に接続されています。そのため、通常音は鳴りませんが、法律を無視した高性能チューニングカーで大気開放にしていると音が出ます。

 S660はもちろん法律に適合しており、従って、エンジンの外にブースト圧を逃がしていません。この音が出るのは種も仕掛けもあって、わざわざ音が鳴るバルブが装着されています。本来性能のための大気開放バルブの音を擬似的に再現しましたというのは、メーカーがやるにはあまりに低レベルです。そういうのはCartuneで卒業してきてください。


最後に

 要約しますと、まずコンセプトがとっ散らかっています。低い剛性に粗悪なアクセル・エンジンに粗悪なステアリング周りという、非常に作りの悪く動質が低い車です。そのくせ、ハイグリップのタイヤや低い乗降性や狭いキャビンに荷物のスペースのなさやプッシュン音など、間違ったスポーツカー世界観が押し付けられます。安っぽいこと自体は問題ではないのです。S660という車の存在自体が、ごくごく上っ面の、ぱっと見の良さだけ横取りして、それを生み出したコンテクストの網目や精神性、「用の美」といったものを全く顧慮しない、スポーツカーの歴史で生まれてきた工夫の重みと時間の堆積への侮蔑です。


 結局のところ、S660は車じゃなくてオモチャだったんですよね。でも、公道を走れます。認可があります。今、自動車の直接原価はどんどん減っている一方で、開発費は非常に高騰しています。すなわち、少数生産の車の開発がどんどん難しくなっています。こういう状況で、200万円でミッドシップスポーツを形にして出すということはたいへん難しかったはずです。このことを評価できる大人が乗る車だと思います。

 




 

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