"高級スポーツカーになりきれなかった未完の戦闘機"
今回試乗させていただいたロータス・ヨーロッパS(タイプ121)は、1966年発売のロータスヨーロッパの名前を継承した2006年に登場したモデルです(以下では可読性のためそれぞれを旧ヨーロッパ/新ヨーロッパSと記述します)。
旧ヨーロッパは今でも根強い人気があるロータス・セブンの後継車であり、極めて軽量に出来ています。軽量化のためサスペンションのアッパーアームがなくドライブシャフトがその任を担っているなど様々な特徴がありました。骨格としては、ロータスのヒット作であるFR車「エラン」のY字型のフレームを逆向きに流用しFRPを被せたMRです。様々なバリエーションがあるらしいのですが、あまり詳しくないのでこのくらいで許してください。
一方で、この新ヨーロッパSは、かなり複雑な経緯でできた車です。GMに依頼されてオペルの記念車をエリーゼを流用で作ろうとする→なんやかんや再設計が増えほぼ作り直しのアルミ接着バスタブを作ってオペルスピードスターが出来る→プロトンにスーパーカーを依頼される→オペルスピードスター流用で作る→そのスーパーカーがナシになった→作っちゃったのでロータスヨーロッパSの名前で発売、という流れのようです。当時のロータスのエリーゼ/エキシージの2車種に追加して高級MRというコンセプトで販売した車です。
紹介はこのくらいにして、まずドアを開けて乗り込みます。背は低いですし、サイドシルが横にも縦にも分厚いですし、正直に言って乗り込みやすいというわけではありませんが、アルミバスタブ構造のスーパーカーとしては全然問題ないと思います。内装はすべて革張りなのですが、足のよく当たる部位には擦れないように保護されてます。足や腰の動線上に変な突起物もなく、良く設計されています。天井を含めありとあらゆる部分に革が張られていて、高級感はよく演出されています。
シートはかなり低く薄いですが、太ももで支えるタイプのシートで好みです。私はロードレーサーに乗っていたので別に座席のクッション性って求めてないんですよね。腰が自然に収まって、運転していてズレないというところが良いです。また、シートの後退幅がかなり大きく、乗り降りするたびに一番最後にシートをずらすことで楽に乗降が出来ます。
ステアリングは非常に"丁度いい"ところにあります。ステアリングを回したときに肘がシートに引っかかることもなく、ステアリングの上端と下端が肩から等距離にあり、非常に回しやすいです。ペダルは、アクセルとブレーキが近く、ヒールアンドトゥしてくださいね!と言わんばかりです。クラッチも比較的に軽い部類で、普通のマニュアルのように動かせます。シフトストロークはやや長めですが、吸い込まれるように入っていきます。私は好きです。
さて、いよいよ試乗です。走り出してまず感じることは、パワステが無い割に、意外とハンドルが重たくないということです。最近の指一本で動くハンドルとは違いますが、一般的な腕力ならば普通に扱えると思います。また、フロントホイール上が峰のようになっていて運転席から車がどこを向いているのか非常にわかりやすいです。一方で、内装からかなりビビリ音は出ますがロータスなので致し方ないかと……
この個体は、足回りを中心に、かなりオーナーの手が入っているようです。ミッドシップの定石でかなりリアタイヤが優位になっていますが、よく仕立て上げられていて本当に気持ち良く曲がります。高速道路で速度を上げていくとステアリングが非常に軽くなるのですが、重ステでもハンドルを軽くするために、製造時からキャスター角が立っていることが原因のようです。ギャップを踏むと強くハンドルが持っていかれる場面もあるので、しっかりとステアリングを握っていたほうが良いです。サスペンションストロークはかなり短いようで、結構跳ねる場面もあるのですが、ピッチング自体の収まりは良いのであまり不快ではありません。ロールセンターは高めにセットされ、エンジン搭載位置もジアコーサ式MRにしては低めに抑えられているので、ロータスにしては珍しく全然ロールせずに走っていきます。平滑な路面であれば存分に振り回せるのでしょう。
エンジンは2リッター直列4気筒ターボの実用エンジンで、1000回転前後でクラッチを繋いでも余裕で走っていくトルクがあります。4000回転ほどでフルブーストがかかっているようですが、そこから上に行くに従ってトルクが落ちてくるので、200馬力程度のように感じられました。2リッターターボですので、タービンを交換して諸々やればもっともっとパワーが出てくると思います。ガラスのリアハッチになっていてエンジンが覗けるのですが、感覚としてはエリーゼよりも低い位置に載っている気がします。アクセルとスロットルは感覚と一致し、ターボのピックアップもかなり良く、運転しやすく感じました。
さて、この車なのですが「ビジネスクラスGT」として670万円程度で発売されました。実際に、エンジンも比較的おとなしく、内装も革張りで、ステアリングも軽めで……という仕立てからも伝わってきますが、コンセプト・価格的にボクスター/ケイマンと真正面からバッティングしていますね。結果としては、快適性でポルシェと戦うのはやはり厳しかったのでしょう、販売台数は500台未満で終わっています。
ところで、このあとロータスはエリーゼ/エキシージの上にハイパースポーツカーのエヴォーラを誕生させました。現在のラインナップは、エヴォーラ後継のエミーラ一本に絞っています。これには奇しくも2リッターの直列4気筒ターボが搭載されるようです。もしも、新ヨーロッパSがハイパースポーツカーとして発売され、エリーゼのようなアルミむき出しの内装・300馬力以上にチューニングされたエンジン・スパルタンな重いハンドリングであったならば……つまり、900kg&300馬力のスパルタンMRクーペとして発売されていたならば、もしかすると大ヒットして、今でもヨーロッパの名前は残っていたのかもしれません。
P.S. 運転させてくださったオーナー様、本当にありがとうございました。今後のチューニングも楽しみにしております。


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