PORSCHE 996 Carrera4 GT Edition 試乗記

「あるいは911が絶賛される所以」

 "ポルシェといえば911" "ポルシェは良いぞ"と言う人々がいます。ポルシェ論は非常に炎上しやすく、また個人の趣味趣向の問題であるのでとやかく言うものではございませんが、911は雑に言ってもターボ/自然吸気オープンデッキ/自然吸気クローズドデッキ、二輪駆動/四輪駆動、ナロー量産ボディ/ターボ量産ボディ/限定車の特殊ボディ、そして901/930/964/993/996/997/991/992の各世代があります。共通する部分はポルシェというブランドとリアに水平対向6気筒エンジンをぶら下げていることくらいでしょうか。
 そもそも、ポルシェの量産スポーツカーはご存知356から始まります。356の試作型ではVWビートルと共通の水平対向4気筒エンジンをミッドシップに搭載していましたが、356量産型ではビートルとの部品共通性を増やし荷物置き場を増やすためにリア搭載に変更されます。そして、356の量産型から901(初代911のこと、開発番号からこう呼ばれる)にモデルチェンジした際にも、エンジンの搭載位置は引き継がれました。それから現代までポルシェ911シリーズはエンジンをリアに搭載し続けています。すなわち、911の特徴といえばリアエンジンでしょう。


 リアエンジンのスポーツカーは、初代911の時代にはアルピーヌA110など他にも存在しましたが、現代では911のみとなっています。そこにはリアエンジン車の基本特性が関係しています。リアエンジンのメリットは、リアの駆動輪への荷重が大きいためにトラクションがかかかりやすいことでしょう。ではデメリットは何でしょうか。
 もし、前後でサスペンションなし、同じタイヤを装着してリアにおもりを積載した車を定常円旋回させるとします。速度を上げていった場合、リアのほうが重たいためリア側から外へ滑り出します。いわゆるオーバーステアですね。ところが、この状態になったとき、フロントは滑り出していないのでグリップは残りますが、リア側のグリップは大幅に低下しています。車のヨー慣性を重心周りに考えると、重心から前方に遠いフロントタイヤがしっかりと喰い、重心から後方に遠いリアに重量物が乗っかっているという状態です。こうなってしまうと、非常に速いヨーレートが発生してしまいます。いわゆるスピンです。
 それに加え、911は車格の割にホイールベースが短めとなっているため、911がリアから滑ったときに立て直すことが難しいと言われます。難しい言い方をすると、「正規化ヨー慣性モーメントが大きい」となります。
 そもそも、市販車はアンダーステア傾向(定常円旋回で条件を変えていって限界を迎えたときフロントから滑り始めること)にセッティングすることが基本です。ましてや911はリアから滑り出すとコントロールが非常に難しいことは先に述べました。そのため、まず、前後で大きくタイヤサイズに差をつけています。さらに、リアサスペンションには凝ったマルチリンク式を採用する一方で、フロントサスペンションには簡便なストラット式を採用しています。さらに、フロントのトレッドを狭く、リアのトレッドを広くしています。このように、ポルシェ911という車は「一度スピンモードに入ると立て直しが難しい。そのために曲がらないように仕立てられた車」でした。それでも、危なっかしい特性を持つ911を乗りこなし踏んでいく911乗りは尊敬を集めていました。
 実際にポルシェもRRの問題を認識していて、メインストリームをトランスアクスルレイアウトのFRにしようとしていた時期があります。いわゆる928/924/944等ですね。一方で、「ポルシェと言えばRRだ」という声に押されて911シリーズを作り続けたという面は否めないでしょう。

 ここまで、長々解説しましたが、私は911を歴代全車種乗ったことは勿論無いですし、雰囲気で車の特性を語っていますし、専門家からボコボコに叩かれるかもしれませんので、この車の紹介に移りましょう。今回運転させていただいたのは、996のカレラ4にGT3用のウィング&リップと本国オプションのハイカムとスポーツECUを組み込んだ限定車です。ナローボディ、四輪駆動、エアロ、よく回る3400cc水平対向6気筒自然吸気エンジン、左ハンドルMTという組み合わせですね。走行距離は6万キロくらいだったかな。タイヤはピレリのPゼロでした。

 まずシートに滑り込みますが、背は高くないのに非常に乗り込みやすいです。体のホールドもなかなかどうしていいじゃないですか。そして、ステアリング、各種ペダルがあるべきところにあります。ポジションはすぐに出せました。タコメーターが真ん中にあって、他にもたくさんメーターがあってテンションが上りますね。あととにかく視界が良いですね。リアウィングで若干後方が見づらいですが、360度非常に死角が少ないです。これも911の良さかもしれません。

 エンジンに関しては、外からだと勇ましい排気音が聞こえますが、車内は比較的静かです。一方で5000回転以上回してハイカムに乗せて慣性吸気のために吸気管が切り替わったあたりから迫力のある水平対向6気筒の音がします。最高です。

 MTに関してはショートシフターが入っているらしいですが、非常に扱いやすく各ギアに入っていきます。精密な機械を触っている感があって私は好きなフィールでした。ギアの繋がりも良く、また6速がオーバードライブではないところも面白いと思います。100km/hで2400回転くらいですかね?


 まず実感するのはアクセルのツキの良さです。オーナーに聞いたところによると、996の前期型は紐スロットルらしく、完全にペダルとスロットルが直結しているのがわかります。アクセル開度とエンジンの動きが完全に一致しているので、少しラフな操作をしたらすべて動きに出ます。現代的な電スロばかり乗っているとギクシャクしてしまうのではないでしょうか。これに、下からトルクが有りながら上まで回る上質な6気筒エンジンが組み合わさっています。意のままに扱うことができれば、本当に楽しいです。

 ステアリングは若干アシスト強めの油圧パワステです。路面のフィールが文字通り手にとるようにわかります。電動パワステにはなかなかこの上質さは出せないなぁと実感します。もちろん良い電動パワステもあるのですが……ゴルフ6とか……。996に話を戻しますと、油圧パワステで、中央付近に若干効きの鈍い部分があって非常にまっすぐ走りやすいです。おそらく四輪駆動なのも影響していると思うのですが、快適にGTカーとして乗っていけます。一方で、攻め込んでいくとしっかりと路面・タイヤの状態を伝えてきます。攻めたらスポーツカー、流せばGTカーというわけです。理想ですね。

 ブレーキは一番ビックリしました。国産コンパクトカーばかり乗ってる人だとかなり怖い思いをすると思います、というのは弱くペダルを踏むと弱い制動力しか立ち上がりません。一方で、踏力を上げれば上げた分だけどこまでも制動力が出てきます。結果、同じ制動力を出そうと思ったら他の車よりもかなり大きな踏力が必要になります。スポーツカーなんだからちゃんとスポーツしろってことでしょう。一方で、踏力感応型のブレーキであるため、微小なブレーキコントロールが非常にやりやすいです。911は先に述べたように強いアンダーステアに仕立ててあります。このブレーキがあればこそ、ブレーキングで鼻を沈めて、そこからブレーキを引きずりながら向きを変えていくような乗り方が自然とできます。

 四輪駆動に関しては全然違和感なく乗れます。どうやらこの世代では、電子制御のクラッチを用いた方式ではなく、ビスカスカップリングによるパッシブな四輪駆動を採用しているようです。911に安定性が付与されていて非常に乗りやすいです。前後の回転差が増大したときに若干ステアフィールが変わるような感じがあったので、そういうときにフロントにトルクを流しているっぽいです。とにかく、直進時もコーナリング時もアクセルを開けていったときも安心感を与えてくれます。四輪駆動のおかげでリアタイヤの破綻をあまり考えずに踏んでいけるという点でも、カレラ4をチョイスするのは非常にアリでしょう。(余談ですが、ミッドシップで四輪駆動にしようとした場合、エンジンの真下をシャフトが通ることになり重心上昇を招くのではないでしょうか。実際にミッドシップ四輪駆動のAudi R8ではエンジンを左にオフセットさせることで重心上昇を抑えていました。FRベース四輪駆動のR35のGT-Rは重心の上昇を諦めています。リアエンジンであれば四輪駆動にしようと思ったときにシンメトリーのまま重心を低く抑えられます。このように、四輪駆動911はなかなかどうして合理的なのではないでしょうか。)


 996カレラ4は、基本特性をアンダーステアに仕立て、四輪駆動でリアエンジンレイアウトに安定感を付与し、良好なステアリングフィールとコントローラブルなブレーキとリニアなガスペダルが用意されています。「用意するものは用意したので、後は貴方が自在に操れ」というポルシェの意図を感じさせるものでした。そもそも、人間は自動車をガスペダルとブレーキペダルとステアリングホイールだけでコントロールしています。この3つの入力装置に関して、非常に緻密に作られているところがこの車の最大の美点です。



 「最新の911が最良の911」と言われます。確かに911は新しければ新しいほどより多くの人がより速く走ることができます。特に、最新の991/992世代ではフロントのトレッドを広げ、さらに電子制御がより賢く積極的に介入することで先のアンダーステア特性を消しスピンモードに陥りにくくしています。

 996世代ではフロントのトレッドが狭くアンダーステアは出ますし、電子制御は現代に比べれば原始的で、本当にヤバくならないと助けてくれません。それでも、私はこの911が大好きです。最初にボタンを掛け違えた -つまりリアにエンジンを搭載した- ことによるネガティブな部分を消すために、アンダーステア特性に仕立て、四輪駆動で安定性を確保し、極めて操作を正確に反映するステアリング&ブレーキ&ガスペダルを備えています。その結果、非常に濃密なドライビングフィールが得られること、これこそが911の本質だと考えています。ステアリングを握って動かし始めたときから満面の笑みになることうけあいです。

コメント