四輪駆動とトルク配分ってなんだ

 四輪駆動システムとトルク配分について機構から理解していないのにそれっぽく語っている人が非常に多いのが現状です。個人のブログはもちろん、クルマ雑誌やメーカー公式カタログすら間違いだらけなのが現状です。可能な限りわかりやすく説明してみたいと思います。

1. 左右輪で説明する回転差/ディファレンシャルギア/トルク配分/直結

 そもそもトルク配分とは何でしょうか。自動車におけるトルク配分とは、2つの出力軸に対して、常に同じトルクを出力するようにバランスを取るものです。これを実現する一番有名な機構がディファレンシャルギアでしょう。



 リングギアにエンジンからの力がかかり、リングギアと一体化したキャリアに取り付けられた公転自転の療法が可能なピニオンギアが、左右のドライブシャフトと繋がったサイドギアと噛み合っています。自動車は左右に曲がります。自動車が左右に曲がるとき、左右輪が通る軌跡の長さは異なるので、左右輪に回転差が生じます。

 このディファレンシャルギアが採用されることで、左右輪の回転差を吸収しつつ、駆動力を路面に伝えることができます。一方で、片方のタイヤがμ→0、つまりほとんど摩擦力がなく空転するような状況では、空転している側のタイヤの駆動トルクは0に近づきます。このとき、反対側のタイヤの駆動トルクはどうなるのでしょうか。答えは、ピニオンギアの自転によって反対側の駆動トルクも0に近づきます。この結果、片輪が突然マンホールを踏んで滑っても、反対側の車輪に駆動力がかかって左右不均等の駆動トルクが発生することはありません。これはこれで安全ですので、ほとんどの市販車はディファレンシャルギアが基本的にこの構成のまま採用されています。どんな状況であっても左右輪の駆動トルクは等しい状態を保つ、これがディファレンシャルギアです。これにより2軸は常時50:50のトルク配分になることがわかりました。

 しかしながら、モータースポーツでは、片輪が滑った瞬間に反対側の車輪の駆動力が切れるという機構は、ラップタイムを縮めるための限界走行においては邪魔になることがあります。コーナー脱出時が典型的ですね。そのために存在するのが、リミテッドスリップディファレンシャルです。これは、左右輪のサイドギア同士を特定の条件で直結するクラッチを追加したものです。左右輪が直結したときの左右トルク配分は、それぞれのタイヤが縦方向に使えるグリップに依存します。タイヤが縦方向に使えるグリップは、主に路面μと荷重(とGとタイヤ特性)によって決まります。従って、クラッチを繋げる↔離すということは可能ですが、トルク配分という形で能動的に決めることはできません。

2. 四輪駆動における駆動配分 直結4WDとディファレンシャルギア付き4WDを例に

 さて、先の章では左右輪で説明しましたが、自動車は前後輪で見ても軌跡の長さに差があり、回転差が生じています。Audi Ur-Quattroの当時モノのカタログにも明示的に書かれていますね。

 昔の四輪駆動は、前後輪の回転差を吸収できない、直結型の四輪駆動でした。この結果、路面μの低いオフロードであれば問題ないのですが、オンロードですと回転差による余計な負荷がかかり、特に舵角の大きなコーナーでタイトブレーキング現象が起こり、さらに駆動系にも負荷がかかります。余談ではありますが、現行型のジムニーの四輪駆動システムはこれなのですが、オンロードを走るときは前輪側を切り離しての二輪駆動モードが推奨されます。

 さて、直結型の四輪駆動で前後"トルク配分"を考えるとどうなるでしょうか。さっきと同じになりますね。主に路面μと荷重(とGとタイヤ特性)によって決まります。従って、クラッチを繋げる↔離すということは可能ですが、トルク配分という形で能動的に決めることはできません。

 ここに注目して、回転差を吸収するディファレンシャルギアをエンジンからの出力と前後プロペラシャフトの間に追加すればオンロードでも快適・自然に走行できる四輪駆動車が作れるのです。大きくこれを宣伝したのがAudi Ur-Quattroですね。めちゃめちゃニチャニチャしているので当時のカタログをそのまま載せておきます。



 さて、Ur-Quattroのセンターデフ機構は、リングギアとキャリアのピニオンギアとサイドギアを利用する、左右輪のディファレンシャルギア機構と同一の構造になります。そうすると前後トルク配分は50:50になります。一方で、全てのディファレンシャルギアがこの機構であると困ることがあります。例えば、雪の中でスタックしたときです。もし1輪でもタイヤグリップがほぼゼロになると、4輪全ての駆動トルクがほぼゼロになってしまいます。そこで、Ur-Quattroにはセンターデフの手動ロック機構が備わっています。もちろん、ロック状態は直結4WDと同じになります。このように、オンロード性能が快適な4WDとオフロードのための4WDのいいとこ取りができますよーというのがUr-Quattroのウリ文句だったわけです。

3 電子制御クラッチ式4WD

 電子制御クラッチ式4WDと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。最初にスポーツカーで電子制御クラッチ式4WDを導入したのはポルシェ959でした。このブログの読者にはこの車の解説は不要かもしれませんが、水平対向6気筒ツインターボエンジンから450馬力を発生し、それを四輪駆動で安定的に路面に伝えるスーパーカーです。

 この車は、リアアクスルから後ろにぶら下げたパワーユニットから後輪軸に動力を伝達し、後輪軸と前輪軸の間をシャフトで結び、その途中に電子制御クラッチを備えています。そして、クラッチは基本的に回転数が高い側から低い側に向かってトルクを伝達します。つまり、主に後輪が空転しているときにフロント側に駆動トルクを伝達します。この場合のトルク配分はどうなるかというと、路面μ・タイヤ荷重・G・タイヤ特性・前後回転数差・電子制御クラッチ締結力に依存します。言い方を変えると、電子制御クラッチというシステムは、前後輪の回転数差を拘束することはできますが、常時ある一定のトルクを配分することはできません。

 ちなみに、この959のシステムをFRベースで再現したものが第二世代GT-RのアテーサET-Sになります。


 FFベースで、フロントデフからシャフトを伸ばしてリアデフの手前に他板クラッチを置いたシステムもあります。ゴルフ7R等で有名ですね。


 まとめますと、電子制御クラッチ式システムは前後の回転数差を拘束するシステムであり、"トルク配分"という言葉を使うこと自体が間違っています。ポール・フレールの「ポルシェ911ヒストリー」ですら、この間違いがあります。もちろん、クラッチを圧着した状態は直結 4WDと同じ状態であり、先の章で説明したようにその駆動配分は50:50には絶対になりません。極論ウィリーして走れば0:100ですしジャックナイフして走れば100:0です。遺憾ながら、ここを理解しない広報担当者の説明を、理解しない記者やブロガーが自分で思考せずにそのままコピペして間違った内容が蔓延っています。


ここらへんで飽きたので残りは章のタイトルだけ記しておき、皆様への宿題にしたいと思います。


3.1. 電子制御クラッチ式4WDにおける前後"回転"差

4. 不当配分ディファレンシャルギアについて

5. ディファレンシャルギアと電子制御クラッチを組み合わせた4WDシステム

6. まとめ

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