FL5 シビックタイプR 試乗記

 それがお前の龍になるのか


 この車に興味を持ったのは、"モデルが消滅すればノウハウは忘れられることがあるだろうが、モデルチェンジすれば前作を磨き上げたものを出せる。したがって、ずっと作り続けている自動車は高い到達点にいるはずである"という思想が元でした。ホンダ・シビックは歴代にスポーツグレードが設定されており、最初の写真にあるグランドシビックから数えても今まで30年以上作り続けられていることになります。せっかくなので友人のフルチューンされた龍のグランドシビック(写真左)を念頭に置きつつ、現在のFL5型シビックタイプR(写真右)は龍になれるのかというのが本稿のテーマです。

 かつて、シビックのスポーツモデルの特徴といえば6000rpmでカムが切り替わり、8000rpmオーバーの高回転までカチまわるVTECエンジンでした。ところが、環境規制・衝突安全基準は強化され、グランドでは全長4m弱幅1.68m程度だったシビックの車体も現行型では全長4.59m幅1.89mにまで肥大化しました。車重も900kg程度から1430kgにまで増えてしまいました。それに合わせてエンジンも、2Lの排気量に大振りなタービンとインタークーラーを組み合わせ、330psものパワーを発生させています。一方、回転数は7000rpmを限度とされています。もちろん、理想を言えばVTECのカムの切り替わりと音を望むのですが、新型シビックタイプR に搭載されているものは現状の法規の中で十分に魅力的なパワーパックになっています。ターボエンジンながらレスポンスもよく、現代的な電子スロットルと組み合わせることでアクセルポジションとブースト圧が対応関係にあり、巡航からスポーツ走行まで不満がない仕上がりです。

 これと組み合わされるのは6速マニュアルトランスミッションのみで、AT仕様は用意されておりません。クラッチペダルの重さはエンジントルクを考えれば十分に軽く、また半クラ領域でも扱いやすくなっています。また、自動ブリッピング機能もあり、乗ってすぐに自在なシフトチェンジを可能としてくれます。そして、シフトは、程々の重さとストロークでもって節度ある感触を返してきます。FF車のトランスミッションはシフトレバーから離れていることが多く、それによりフィーリングが損なわれている車も少なくない中で、FL5型のものは魅力やね……と言える出来栄えです。

 室内は、見かけ通りです。フロント側にドリンクホルダーが4つあり、座席もDセグメント並みに広くなっています。リア側はレッグスペースこそ十分ですが、ルーフが後端に向けて下がっていることで、座高の高い人はややつらいかもしれません。また、シートの赤のスウェード調の合皮、赤いアンビエントライト、赤いシートベルト等、"Sports Mind"を感じさせる部分もありますが、運転してるときは見えないので気になりませんヨ。
 また、前席でもかなり揺られますが、後席は更に酷く揺れます。リアの雰囲気バネ上共振周波数が2を軽く超えています。これに伴い、せっかくの乗り心地のために用意される可変ダンパーですが、バネに合わせ一番硬いモードが好ましいでしょう。ダンパーだけ柔らかくしても揺れが収まらなくなるだけで乗り心地はむしろ悪化します。RモードでもFD2よりはマシではあるので、TypeR基準であれば標準的な乗り心地といえなくもありません。

 フロントサスペンションはベースグレード同様にストラット式を採用していますが、ステアリングフィールのためにわざわざナックルを別体で取り付け、キングピンオフセットを可能な限り減らしています。他にもメガーヌRSで採用されていたこの方式ですが、確かにトルクステアの少なさを感じるものの、ホンダ特有の癖の強いパワーステアリングによってその拘りはかなり覆い隠されてしまっています。でもシビックに上質なステアリングフィールを求めないでしょう。なのでこれで十分良いのです。
 フロントには効きの強いLSDが純正で入っていて、固いバネで支えるトーインの強いリアと組み合わされされています。この車は、ブレーキでリアを浮かすように入っていって半ば強引にヨーレートを立ち上げコーナー出口が見えたら根性全開で立ち上がるような、典型的なFF競技車の運転をすることでサマになります。

 このように、新型シビックタイプRは、環境規制の強化や衝突安全基準の高度化、車両価格の上昇に伴う想定顧客の高齢化の中で、4人+荷物が十分に載り、ギリギリ許容できなくもない乗り心地によってファミリーカーという主張が可能なようになっています。走りとしては、余裕の少ないボディに固いバネと馬力過剰のエンジンを組み合わせた昔ながらのシビックタイプRの味が残っています。"龍"そのものではなく、だいぶ大人向けの味付けにシフトしてはいるもののの、"龍の片鱗"を覗かせる車でした。


P.S. 
流石に現代の新車というだけのことはあり、高速道路ではアダプティブクルーズコントロールにレーンキープアシストを使うことができ、疲労を軽減してくれます。一方で、多くの運転支援システムはタイヤのネジレを予測した操舵ができません。ところが、この車の履く265/30R19タイヤがネジレが少ないことによって、棚ぼた的に運転支援システムの出来が良くなっています。



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