0. ターボエンジンと自然吸気エンジン、どっちが良いのかという議論はしばしば行われます。ここでは、ターボエンジンってなんぞやという話と、そのメリットデメリット、さらにそこに追加された機構について聞きかじった知識をまとめておきます。それでも、機構目的、長所短所を念頭に置きつつ書いておくことで、コピペや海外wikiを盲目的に翻訳した間違いだらけの記事が多い中では役に立つでしょう。ちなみに前提部分が長いので、4.から読んでもなんの問題もないです。
1. ターボエンジンとは、排気タービンが追加された内燃機関と定義されることが多いですが、ここでは更に絞って、排気タービンが追加されたガソリンを燃料とするレシプロエンジンとします。そもそも排気タービンとは、排気のエネルギーを用いて、過給器を回し、それにより吸気の圧力を増加させ、燃焼に用いる酸素量を増やして、パワーを増大させる機構です。
2. 実用としてターボが大きく使われたのは第2次世界大戦中の航空機でした。高度を上げれば上げるほど、空気は薄くなります。同じ吸気量であれば馬力はどんどん出せなくなります。そのため、空気を圧縮してシリンダーに送り込む機構が必要とされました。
そこで主に使われたのは、クランク軸から出力をもってきて圧縮機を回すスーパーチャージャーでした。高度によってスーパーチャージャーとクランク軸のギア比を切り替えたり、スーパーチャージャーを2基おいてより圧縮能力を高めるなどの工夫も出てきました。
一方で、スーパーチャージャーはクランク軸から出力を取り出す以上、効率が悪いものになります。そこで、排気のエネルギーを使って過給器を回そうという発想が出てきます。これが排気タービンです。一方で、燃焼後の高圧の排気を利用する&非常に高回転になる&空気を圧縮するため、高温になってしまい、実用化が非常に難しいものでした。唯一実用化したと言って良いアメリカ軍は、ニッケルを大量に使った高品質な鋼を用いて、一定使用時間でタービン交換(B-29の場合だとほとんど毎フライト)という非常に贅沢なことをしています。
3. レーシングカーにターボを採用しようとしたことで有名なのは1970年型のトヨタセブンでしょう。こちらはブローオフバルブ(後述)がなく、過給圧が際限なく上昇するという原始的な自動車向けターボエンジンで、実際にレースを走ることはありませんでした。
その2年後、1972年のポルシェ917/10Kはターボエンジンを採用してCAN-AMレースで勝ちまくりました。
4. 市販の自動車にターボを持ち込んだのは、GMが初ではありますが、あくまでマーケティング都合的な部分が大きくそこまで過給圧が高いものではありませんでした。
1973年登場のBMWの2002turboが実質上の最初の市販ターボカーでしょう。これは大気開放型のブローオフバルブを搭載し、過給圧が一定の値まで上昇した後、それ以上に圧縮した部分は捨てるという構造になっています。一方でこの機構は現在では使われていません。というのもスロットルを全開から全閉にしたとき、タービンは最高回転で回っているままスロットルだけ閉じるということになり、スロットル側で圧縮された空気がタービンを逆方向に回そうとしてしまいます。
1974年登場のポルシェの930ターボでは、過給器で圧縮した後の空気を冷やすインタークーラーを搭載し、さらにブローオフバルブをタービンの圧縮機手前に接続し、圧縮した空気を吸気系タービン手前に捨てるようにしました。これにより、過給圧の過度な上昇を抑えつつ、突然スロットルを全開から全閉にしたときでも、タービンの圧縮機側の入り口と出口で圧力差がなくなり、タービンを逆転させようという力を防ぐことができます。このインタークーラー付、ブローオフバルブがタービンの圧縮機手前接続の形式が、現代まで続くターボ車のスタンダードな構造になります。ディバーダーバルブもこれの違う呼び方ですね。
5. さて、タービンの逆転こそ防げるようになりましたが、タービンの回転が低下した後元の回転に戻るまでに時間がかかることが依然として問題です。したがって、このタービンの回転を戻す時間をどれだけ短くするかが課題となるようになりました。
一個の排気タービンを回すための排気を2系統に分けることで排気干渉を減らすことにより効率の向上を図るツインスクロールターボ(ランエボ インプ)、そもそも小さなタービンを2個つければ排気干渉も減りタービンも小さくなって回転上昇が速くなるよねというパラレルツインターボ(RB26とか)、低負荷時には一個ターボを回し高負荷時には直列に配置した二個目のターボも回すシーケンシャルツインターボ(FD3Sとか)といったものもこのときに生まれました。
余談ですが、BHレガシィのEj20ツインターボは変で、低負荷時には一個ターボを回し高負荷時には並列に配置した二個目のターボも回す仕様になっており、一部の排気管が低負荷時と高負荷時で流れる向きが逆になるという不思議な仕組みになっています。後のEJ20ではツインスクロールターボに改められたのでまあそういうことなのでしょう。
6. そして、スロットルオフ時にそもそもタービンを回し続ければターボラグをもっと小さくできるじゃないか、ということで生まれたのががアンチラグと呼ばれる一連の技術です。これを実現する方法は複数あります。
F-1では排気タービンがモータージェネレーターと直結されていて、モータージェネレーターに電力を供給することで排気タービンを強制的に回転させることができます。これも広義のアンチラグでしょう。
排気タービン自体に細工をしないのであれば、スロットルオフ時にタービンの回転を落とさないためには、給排気系と燃料系と点火系に細工をして高い排気エネルギーを供給し続けることが重要になります。
レーシングカーで現在メジャーになっているのは、排気タービン直後の吸気系と、排気タービン直前の排気系をバイパス路でつなぎ、バイパス路上のバルブを制御して余った圧縮吸気を排気系タービン手前のエキマニに戻し、なおかつ、燃料を事前に多めに吹いておくことで、エキマニ内で燃焼させるシステムです。ただし、これはレースカー以外では基本見られません。なぜなら、エキマニ内で燃焼するために排気が非常に高温になり、市販車では触媒が死んでしまうのです。実際に、市販車でもランエボ3~9では搭載こそされていますが、ECUの制御で無効化されて販売されていました。
他にも、スロットルペダルを戻してもスロットルを閉じきらずに、燃料を多めに供給し下死点付近で点火することで、シリンダー内だけでなく排気バルブが開いた後のエキマニ内部でも燃焼が続き、排気タービンへ排気エネルギーを供給できます。これは、現代の電子スロットル採用車種であれば比較的簡単に実現できます。このとき駆動トルクはほぼゼロ、エンジンブレーキは弱くなります。このシステムにはもう一点考えねばならない問題があります。ブレーキサーボはインマニの負圧を利用しているので、スロットルを開きすぎるとインマニの負圧が弱まってブレーキサーボが効かなくなってしまいます。そのため、スロットルを絶妙にちょっとだけ開く必要があります。
7. さて、このようにターボエンジンのタービン回転数を維持する工夫は様々なものが行われてきました。が、電動ターボ以外の方式では、触媒またはブレーキフィールの問題が残ります。個人の感想としては、スポーツカーというのはどれだけ肉体の延長として自動車という機械を精密に操作できるかというのが重要だと考えています。レースで排気量が制限されているのであればターボエンジンも良いでしょう。が、どんなアンチラグシステムを積んだエンジンよりも自然吸気エンジンのほうがドライバビリティに優れている以上、自然吸気エンジンのほうが私の好むところではあります。
肉体の延長として精密に操作できる自動車を"スポーツカ"ーだと定義すれば、真にスポーツカーと呼べる最近の市販車は、ノンサーボ・自然吸気・超軽量のローバーエンジンエリーゼかケータハムだけでしょう。何が言いたいかというと最近はローバーエンジンエリーゼが気になっています。めっちゃほしい。ではまた。

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