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1. DB601ってなんだっけ
第二次世界大戦中の代表的な航空機用液冷V型12気筒エンジンといえば、ドイツのダイムラーベンツ・DB601型エンジンと、イギリスのロールスロイス・マーリンエンジンである。前者はBf109に、後者はスピットファイアに搭載され、バトル・オブ・ブリテンを争った。
本記事は、ドイツのダイムラー・ベンツDB601型エンジンに注目し、どのようなエンジンであったかを振り返ってみたいと思う。
2. DB601の数々の新機軸 その理想と現実
DB601型は凝りに凝っている。全て取り上げるのは不可能だが、大まかな理想と現実を解説する。
2.1. 直噴
DB601型は、燃料供給に機械式直接噴射方式を採用している。旧来のキャブレター方式は燃料の浮力を利用しているため、戦闘機動によりマイナスGがかかったとき燃料供給が停止することがある。直接噴射の採用により、マイナスGでのエンジン停止を防ぐことができる。
余談ではあるが、2017年のクリストファー・ノーラン作の映画「ダンケルク」の1時間18分~19分あたりで、キャブレター方式のスピットファイアが、直接噴射方式のBf109を追ってマイナスG機動をして、エンジン停止~再始動する描写がある(https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B07799J32K/ref=atv_dp_share_cu_r)。更に余談であるが、後にスピットファイアもキャブレターの設計変更でマイナスGに対応している。キャブレターでも対応できるんじゃん……
2.2. 倒立
非常に珍しいことに、V型エンジンを倒立配置とし、機体上部の胴体幅を狭め、視界を良好にしている。一方で、燃焼室が下方に来るので、いわゆるオイル"上がり"の症状が出やすくなる。
2.3. 真ん中に機関銃
プロペラの真ん中から射撃できるようにVバンクの真ん中に機関銃を通すスペースを用意してある。プロペラ同軸機銃のメリットは命中率の向上である。一方で、その分、Vバンク間のスペースは圧迫されている。
2.4. トルコンスーパーチャージャー
機械式過給器、いわゆるスーパーチャージャーを、エンジン回転から流体継手(トルコンみたいなもん)を通して回している。このメリットは、空気が濃い低空ではチャージャーの抵抗が増えるため回転数が下がり、空気が薄い高空ではチャージャーの抵抗が減るため回転数が上がる。したがって、低空でのオーバーブーストを防ぎつつ、高空でブースト圧を得ることができる。一方で、エンジンオイルを流用したため油温上昇、メンテ難化、重量増加を招いた。そのころイギリスは普通にスーパーチャージャー用2速変速機をつけた。
2.5. ヘッド&シリンダーブロック一体鋳造と巨大ナットによるクランクケース取り付け
このエンジンにはヘッドガスケットは存在しない。ヘッドとシリンダーブロックは一体鋳造である。後で、ドライシリンダーライナーをクランクケース側から焼き嵌めする。余談であるが、ヘッド&シリンダー一体鋳造と聞いて、1980年代のターボF1エンジンであるHart 415Tの後期型を思い出した方もおられるであろう。目的は、ヘッドガスケット吹き抜けが絶対に起きないことである。
しかし、デメリットとしてドデカ鋳物になるので歩留まりも悪く、アルミブロックに鉄ライナーであるために熱歪みが発生し、しかもそれがドライシリンダーライナーなので隣のシリンダーと影響し合う。
さらに凝っているのは、シリンダーブロックに巨大ダイスでネジを切っておいて、ボアよりも大きな口径のクソデカナットを専用工具で回してクランクケースに固定している。確かにボルト数本の場合と違って歪みは出にくいかもしれないが、加工は遥かに大変だろう。
2.6. SOHC4バルブ
このエンジンはSOHCながら4バルブを実現している。4バルブのほうがパワーにおいて有利なことは自動車に詳しい諸兄ならご存知だろう。ところが、1山のカムが排気バルブロッカーアームと、吸気バルブロッカーアームの両方を叩く。したがって、排気と吸気のカムプロファイルは同一で、ロッカーアームとの隙間を微妙に開けて調節することになり、妥協がある。4バルブにして凝った割に、雑である。
ちなみにロールスのマーリンエンジンはオーソドックスなSOHC2バルブで、排気と吸気で違うカム山を使う方式だ。こちらのほうが単純で、調整もしやすい。
2.7. クランクにニードルローラーベアリング
クランク軸の軸受は、エンジンオイルを利用してメタルで済ませるのがオーソドックスなやり方である。が、DB601はコンロッドビッグエンド部に、ニードルローラーベアリングを採用している。これにより、メタル式に比べてわずかながら抵抗を低減している。
もちろん、ここのベアリングは、クランク軸を通すので、二分割できる必要がある。ベアリングレースも2分割なので、分割の接触部分にズレないように精度の良いセレーションが加工してある。非常に高負荷のベアリングレースなので極めて高い加工精度が要求された。
クランク軸側も、ローラーベアリングによる線接触に耐えるために、ニッケル鋼を用いて、さらに浸炭焼入れをした。が、浸炭焼入れをすると当然歪みが出るので、浸炭焼入れ後に再度表面を削って精度を出してやる。このために、巨大なクランクの浸炭・焼入れ・切削する機械を用意する必要がある。総じて、僅かなメリットのために、求められる工作技術・工数が異様である。
余談であるがDB601型エンジンを日本でライセンス生産したものの、トラブルが多く、その原因の大部分はクランクであったと言われてきた。実際に設計を見てみるとさもありなんという感想が浮かんでくる。
3. まとめ 凝りすぎのドイツ
総じて、このDB601は、凝り過ぎである。趣向の凝らし様は、レース用のせいぜい数十基程度を生産するエンジンのようであり、戦争をするための何十万基と造るエンジンとは思えない。DB601を主力エンジンにして何十万基と生産した工業力たるや凄まじいものがあるが、やはり戦争には敗北した。
戦争・量産性ともに勝利したのは、英ロールスロイス設計のオーソドックスでハイパワーが出せてライセンス生産も簡単なマーリンエンジンであったのである。そして、現代でもマーリンエンジンは新規部品が作られており、航空ショーで重宝されているのであった。
参考にしたサイト
愛知時計電機株式会社 PDF https://www.aichitokei.co.jp/wp/wp-content/uploads/c607a98997497431a8fedb7deb51bd64.pdf
Engine Design http://www.engine-design.tokyo/2020/01/14/packard-merlin-v-1650/







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